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債権法改正⑤:実務ルールの明文化

 

第1 はじめに

今回は、債権法改正に関する弁護士コラム(5連載)の最終回として、旧民法では規定されていなかったものの、裁判例の積み上げなどから実務上で定着していたルールで、改正法において明文化されたものを幾つかご紹介します。

第2 意思能力に関する実務ルールの明文化(改正民法3条の2)

法律上の「意思能力」とは法律行為(契約など)の意味や結果を理解して判断する能力のことをいい、7~8歳の子どもの判断能力が例に挙げられることがありますが、法律行為の内容によって異なります。

この「意思能力」については、法律行為の大前提となる重要な事項でありながら、旧民法には規定がなく、判例上、意思能力を有していない者の法律行為は「無効」であると判示されたことから、実務上の確立したルールとなっていました。

しかし、高齢化社会が進み、認知症等で「意思能力」を喪失される方も増加傾向にあるなど、この「意思能力制度」は高齢者における契約トラブルの防止という意味でも重要性が高まっています。

そこで、このような社会情勢を背景として「意思能力制度」について明文で規定されることになったのです。

第3 賃貸借契約に関する実務上のルールの明文化(改正民法601条以下)

賃貸借契約に関しては、多くの実務上のルールが明文化されましたので、以下にご紹介します。

1 敷金に関する規定(改正民法622条の2)

敷金の定義(賃料債務等の担保を目的として賃借人が賃貸人に交付する金銭で名目を問わない)や敷金返還債務の発生時期(賃貸借契約が終了して賃貸人が賃貸物の返還を受けた時)などが明文化されました。

2 賃貸借目的物の修繕義務(改正民法606条、607条の2)

賃貸人は、賃貸物の使用収益に必要な修繕義務を負うことを原則とし、賃借人の責めに帰すべき事由により修繕が必要になった場合には修繕義務を負わないことが明記されました。

また、賃貸物の修繕が必要なのに賃貸人が必要な修繕を行ってくれない場合には、一定の要件のもとで、賃借人において修繕ができること(修繕費用は賃貸人に別途請求できます)も明記されました。

3 不動産賃借人の妨害停止請求権(改正民法605条の4)

不動産賃貸借について対抗要件(登記や占有など)を備えている賃借人は、不動産の利用を妨げている第三者に対し、妨害の停止や返還を賃貸人を介さずに直接請求ができることが明文化されました。

4 不動産賃貸借における賃貸人の地位の移転(改正民法605条の2)

ア 賃貸借の対抗要件を備えた賃貸不動産が譲渡されたときは、原則として、賃借人の承諾を要することなく、新たな所有者に賃貸人の地位が移転することが明記されました。

なお、賃貸人の地位の移転について賃借人から争われた場合には、新たな所有者において不動産所有権の移転登記を経る必要があります。

イ 賃貸人の地位の移転に伴う敷金返還債務等の承継  対象不動産の譲渡に伴い賃貸人の地位が新所有者に移転した場合には、以前の賃貸人に対する賃借人の費用償還請求権(賃貸人が負担した修繕費用など)や敷金返還債務なども新たな賃貸人に引き継がれるます。

5 賃借物の一部滅失等による賃料減額及び契約解除(改正民法611条)

賃借人の責めに帰することのできない事由で、賃借物の一部が滅失等して使用収益ができなくなった場合には、賃借人の請求を要することなく、当然に賃料が減額されることが明記されました。

また、賃借人の帰責事由の有無にかかわらず、賃借物の一部が滅失等して使用収益ができなくなり、残存部分のみでは契約の目的を達成できない場合には、賃借人から契約の解除ができることも明記されました。

6 目的物の返還義務(改正民法601条)

賃貸借契約の終了時に目的物の返還を約束することが賃貸借契約の合意内容であることが明記されました。

7 契約終了時における原状回復義務(改正民法621条)

賃貸借契約が終了した場合、賃借人は賃借物の損傷について原状回復義務を負うことが明記されるとともに、賃借物の通常の使用方法によって生じた損傷(通常損耗)や単なる老朽化(経年変化)については原状回復義務の対象とならないことも併せて明記されました。

第4 約款取引に関する実務ルールの明文化(改正民法548条の2~4)

「約款」とは、不特定多数の顧客と取引を行う事業者において、予め契約内容の詳細を定めておき、それに基づいて契約が締結されるものであり、保険契約や金融取引などの場面で普及しています。

改正民法では、この「約款(定型約款)」に関する規定が設けられました。

1 定型約款の効力の発生要件(改正民法548条の2)

民法の原則では、契約の当事者は、契約内容を認識したうえで契約締結の意思表示しなければ、その契約内容に拘束されません。

しかし、次の場合には、定型約款に記載されている個別の条項の内容を認識していなくても、各条項が契約内容に含まれることになります。

① 定型約款を契約の内容とする旨の合意があった場合

② 定型約款を契約の内容とする旨を相手方に事前に表示していた場合

ただし、定型約款による取引の合意前に相手方から定型約款の内容の開示を求められたにもかかわらず、定型約款を準備した者が正当な理由なく開示を拒んだ場合には、定型約款の条項は契約内容とはなりません。

2 不当条項の取扱い(改正民法548条の2第2項)

顧客の利益を一方的に害するような信義則(民法1条2項)に反する内容の条項については、合意内容から除外されることが明確化されました。

3 定型約款の内容変更(改正民法548条の4)

定型約款を準備した事業者においては、以下の場合に限り、定型約款の内容を事後的に変更できることが明確にされました。

① 定型約款の変更が、相手方(顧客)の一般の利益に適合するとき

又は

② 定型約款の変更が、契約の目的に反せず、かつ、変更の事情に照らして合理的なものであるとき

なお、定型約款を準備した者は、定型約款を変更するときには、その効力が発生する時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期について、インターネットを利用するなどの適切な方法によって周知することが義務付けられました。

第5 最後に

これまで5回にわたって債権法の改正内容をご紹介してきましたが、弁護士会の法律相談センターでは、民法改正に関するものに限らず、様々な法律問題の相談を受け付けていますので,心配ごとがありましたら、お気軽に法律相談センターにお問い合わせください。

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