弁護士コラム

所有者不明土地・建物対策(②特化管理制度)

民間企業や行政機関において取引(売買や造成など)や公共工事のために他者所有の土地や建物の取得を検討する場面では、①登記名義人の方が既に他界していて相続人も多数で現在の所有者が誰かよく分からないことや、②現在の所有者(共有者)である登記名義人の方の所在が不明で連絡が取れないことがよくあると思います。このような場合、誰を相手として交渉を行えば良いのでしょうか。

 また、個人においても、③近隣の土地や建物の適切な管理が行われておらず、老朽化等により周囲に悪影響を与えていることもあるかと思います。放置すれば周囲に被害が生じることが予想される場合、どのような対処をすれば良いのでしょうか。

 本コラムでは、所有者不明土地・建物の解消対策のうち、民法の改正により新設された「所有者不明土地・建物管理制度」と「管理不全土地・建物管理制度」について、ご紹介します。

第1 所有者不明土地・建物管理制度

1 現在の課題

 民法等の改正によって不動産の「相続登記」や「住所変更登記」の申請が義務化されましたが、全ての不動産について現在の所有者の名義や住所に合致させていくには、今後も長い時間が必要となることが予想されます。

 このため、土地や建物の所有者や管理者と連絡がとれず、今後の不動産の処遇について協議をすることすら困難なケースが今後も多く残ることでしょう。

2 新制度の内容

 そこで、新たに民法において、特定の土地・建物のみに特化して管理を行う「所有者不明土地・建物管理制度」が新設されました。

(1)申立て

 調査を尽くしても所有者やその所在が不明な土地や建物の管理について利害関係を有する方(利害関係人)が、裁判所にその土地・建物(共有持分を含む)の管理を行う者として「所有者不明土地・建物管理人」の選任(管理命令)を申立てます。

(2)所有者不明土地・建物管理人の権限

 所有者不明「土地」管理人の場合は、①管理対象である土地と土地上の動産の管理・処分、②その管理・処分によって得られた財産の管理・処分ができます。

 所有者不明「建物」管理人の場合は、①管理対象である建物と建物に付属する動産、その建物の敷地に関する権利の管理・処分、②その管理・処分によって得られた財産の管理・処分ができます。

(3)所有者不明土地・建物に関する訴訟

 裁判所より「管理命令」が発せられると、選任された所有者不明土地・建物管理人が対象不動産に関する訴訟の原告又は被告となって対応をすることとなります。言い替えると、対象不動産について訴訟を行いたい場合には、先に裁判所から「管理命令」を得ておくことで、所在等が不明な登記名義人を相手とするのではなく、所有者不明土地・建物管理人を相手として裁判手続を行うことができることになるのです。

第2 管理不全土地・建物管理制度

1 現在の課題

 所有者が分かっていても全く不動産の管理を行おうとせず、老朽化した建物の倒壊の危険などが生じているようなケースがあります。近隣にお住まいの方にとっては大きな迷惑となっているかもしれません。このような場合、どのような対処ができるでしょうか。

2 新制度の内容

 そこで、新たに民法において、不動産の管理が不適当であることによって他人の権利や利益が侵害されたり、されそうになっている場合に対処する制度として「管理不全土地・建物管理制度」が設けられました。

(1)申立て

 土地・建物の所有者による管理が「不適当」であることで、他人の権利や利益が侵害されたり、そのおそれがある場合に、その方(利害関係人)の申立によって裁判所に「管理不全土地・建物管理人」を選任してもらうこと(管理不全土地・建物管理命令)ができるようになりました。

(2)管理不全土地・建物管理人の権限

 この点は、所有者不在土地・建物管理人と同様です。管理不全土地・建物管理人は、①管理対象とされた土地・建物とそこにある動産や敷地権についての管理・処分、②その管理・処分によって得られた財産の管理・処分を行う権限があります。

(3)どんなことが期待されるのか?

 管理不全土地・建物管理人は、所有者らのために「善良な管理者の注意」をもって権限を行使しなければならないとされています。問題となっている不動産の周辺にお住まいの方やその地域の自治体などが主体となって裁判所に「管理命令」を出してもらい、管理不全土地・建物管理者として選任された方に、①当該不動産の適切な管理を行ってもらったり、②当該不動産を第三者に売却してもらうことで、不動産の正常な管理を行ってもらえるようになることが期待されています。

第3 ご相談について

 新たな不動産の管理制度の概要はこれまで述べたとおりです。ただ、民法でも新しい制度ということもあり、細かな要件などは専門家である弁護士に確認いただいた方が安心です。

 弁護士会の法律相談センターでは、これらの管理制度に限らず、様々な法律問題のご相談を受け付けていますので、心配ごとがありましたら、お気軽に法律相談センターにお問い合わせください。

以 上