債権法改正③(法定利率に関する改正)
1 はじめに
「法定利率」とは,借金や賠償金などで利息や遅延損害金が発生する場面において,当事者間で利率の合意が存在しない場合に法律上適用される利率(年利)のことを言います。
今回は,この「法定利率」の改正について,ご紹介します。
2 法定利率に関する「緩やかな変動制」の導入等
(1) 改正の経緯
改正前の民法では「年5%の固定制」の法定利率が採用されていましたが,一般社会の金利(市中金利)と比べて掛け離れているとの批判がありました。
そこで,改正民法では,市中金利の変動状況に合わせて法定利率を変動させる方式が採用されることになりましたが,法定利率が毎年変動すると一般社会における各種事務処理への影響も大きいことから,3年毎に1%刻みで見直しを行うという「緩やかな変動制」とされました。
(2) 「緩やかな変動制」の導入(改正民法404条)
改正民法の施行日(令和2年4月1日)から法定利率は「年3%」とされました。この法定利率は,銀行における短期貸付金の平均利率(直近5年間分)を基準として,3年毎に1%単位で見直されます。
(3) 商事法定利率の廃止(民法改正整備法3条1項)
商法では「商事法定利率」として特別な法定利率(年6%)が規定されていましたが,同規定は廃止され,民法の法定利率(年3%)に統一されました。
3 法定利率の適用基準時に関する規定の整備
法定利率が変動する場合,ある出来事にどの時点の法定利率が適用されるのかという問題や,途中で法定利率が変動したらどうなるのかという問題が生じますが,そのような疑問を解消すべく,改正民法では「法定利率の適用基準時」に関する規定も整備されました。
以下に「利息」と「遅延損害金」に分けて説明します。
(1) 利息の場合(改正民法404条1項)
利息に「法定利率」が適用されるのは,利息を支払う約束(必要)があるものの,当事者間で利率が定められていない場合です。この場合には「利息が生じた最初の時点」の法定利率が適用され,一旦定められた利率は,その後に法定利率に変動が生じても,変動しないものとされました。
(2) 遅延損害金の場合(改正民法419条1項,412条)
遅延損害金に「法定利率」が適用されるのも,利息の場合と同様,当事者間で利率が定められていない場合です。この場合には「債務者が履行すべき義務を遅滞した最初の時点」の法定利率が適用され,その後は利息の場合と同様に変動しないものとされました。
なお,遅延損害金が債務の不履行に基づく場合には,債務の履行について,①確定した期限がある場合は「期限が到来した時点」,②期限が不確定の場合は「期限の確定・到来後に請求を受けた時点」または「期限の確定・到来を知った時点」の「いずれか早い時点」,③期限が定められていない場合は「請求を受けた時点」から遅延損害金が発生し,各時点の法定利率が適用されます。
また,遅延損害金が不法行為(交通事故の損害賠償など)に基づく場合には,損害賠償債務は不法行為時に発生するとともに即時に遅滞に陥るとされていること(判例実務)から「不法行為(事故等)が発生した時点」の法定利率が適用されることになります。
4 中間利息控除に関する規定の明文化
(1) 中間利息控除の明文化(改正民法417条の2,722条1項)
「中間利息控除」とは,将来得られる金銭を現在の価値に換算するために,その期間の利息分を差し引くというものです。例えば,年利1%の場合,現在の100円は1年後には利息込で101円の価値があり,その逆に,1年後の101円は利息分を引くと現在は100円の価値しかないという考え方です。
そして,この「中間利息控除」は,特に交通事故における逸失利益(交通事故被害に遭わなければ将来得られたであろう収入等)に関する賠償額の算定において重要な意味を持ちます。交通事故の損害賠償額は,前述のとおり,原則として事故発生時を基準に計算されるため,将来得られたはずの収入等の金額から利息分を差し引いて現在の価値(金額)を計算する必要があるからです。
改正前の民法には「中間利息控除」に関する規定はありませんでしたが,実務では当然の運用とされていたことから,改正民法で明文化されました。
(2) 中間利息控除における「法定利率」の適用
中間利息控除において適用される利率については,旧法下での「法定利率」を採用した判例実務が定着していることから,改正民法でも「中間利息控除」の計算に「法定利率」を用いることが明文で規定されました。
(3) 中間利息控除の適用範囲
中間利息控除の考え方が「逸失利益(将来取得すべき利益)」だけでなく「将来負担すべき費用」の損害賠償にも適用され,「債務不履行」だけでなく「不法行為」の損害賠償にも適用されることも明文で規定されました。
5 まとめ
以上のとおり,改正民法では「変動制の法定利率」が採用されるなど,様々な変更点が存在します。弁護士会の法律相談センターでは,民法改正に関するものに限らず,様々な法律問題の相談を受け付けていますので,心配ごとがありましたら,お気軽に法律相談センターにお問い合わせください。