強制執行(養育費の支払いがない場合)
【養育費の調停をしたが支払がない場合にとりうる手段】
以前に当コラムで,離婚した相手方から養育費の支払いがない場合には, 相手方(支払義務者)の預貯金や給料などを差し押さえる手続があるということをご説明しました (2016年10月3日付け弁護士コラム「養育費と面会交流のお話」ご参照)。
この手続のことを法律用語では「強制執行」と言いますが, 今回のコラムでは,この強制執行の具体的な手続について, 養育費に関する調停が成立しているなど,権利の内容(支払金額・支払時期) が公的に確定している場合を念頭において,ご説明します (養育費の概要については上記コラムをご覧ください)。
1.強制執行の対象(何を差し押さえるか)
(1)強制執行(財産差し押さえ)の種類
強制執行は,差し押さえの対象となる財産の種類によって,①不動産執行, ②動産執行,③債権執行,の3種類に分けられます。
①不動産執行は,相手方名義の土地や建物を対象とするものです。
②動産執行は,不動産以外の物や,株券等を対象とするものです。
③債権執行は,相手方の預貯金や給料などを対象とするもので,3種類のうち, 最も多く利用されています。
(2)養育費の回収に最も効果的な強制執行(差し押さえ)の対象
強制執行を行えるのは,原則として,支払期限が到来しているのに未だ支払がされて いない場合に限られますので,相手方から定期的に金銭を受け取る内容の権利の場合でも, 支払期限が経過して未払いが生じる度に強制執行を申し立てなければならず, 手続きの負担が重いという不都合が生じます。
そこで,養育費のように扶養義務等に係る定期金の請求権については,例外的に, 相手方が第三者に対して有している継続的な給付請求権を対象とする場合には, 一度の申立てにより,未払部分だけでなく、支払期限が未だ到来していない将来の 請求権についても継続的に差し押さえることが認められています (民事執行法151条の2)。
そして,この例外規定による差し押さえの対象として最も効果的なのが,相手方が勤務先 (第三債務者)に対して有している給料債権(継続的な給付請求権)であり, 相手方が勤務先を辞めない限り,差し押さえの効力が継続しますので, 手続きの負担も比較的に少ないと言えます。
以下では,相手方の給料を差し押さえる場合における強制執行の手続きの流れをご説明します。
2.強制執行(給料の差し押さえ)の手続きの流れ
(1)強制執行の申し立て
強制執行を申し立てるためには,相手方の住所地を管轄する裁判所に,所定の書類を 提出する必要があります。提出書類の中には,養育費の内容が取り決められた公的な書類 (家庭裁判所作成の調停調書や公証人作成の公正証書など)が含まれますので, 紛失されないようにご注意ください。
また,申立てにあたり,裁判所の手数料(印紙)や通知用の切手などの費用が発生します (具体的な額は,裁判所によって異なりますので,申立ての際に裁判所へお問い合わせください)。
(2)給料の差し押さえ
申立てが裁判所に受理され,特に問題がなければ,裁判所から債権差押命令が相手方 (債務者)と勤務先(第三債務者)に送付されて給料の差し押さえ(勤務先から相手方 への支払い停止)が行われます。
なお,養育費に関する給料の差し押さえについては,税金や社会保険料等を控除した給料 支給額(手取額)の2分の1まで(貸金や慰謝料などの通常の請求権の場合には4分の1まで) を差し押さえることが可能です(手取総額が66万円を超える場合には, 33万円を超える部分の全額を差し押さえることができます)。
(3)養育費の回収(取り立て,配当)
上述のとおり,差し押さえによって相手方への支払いが停止された給料の一部については, 原則として,申立人(債権者)が相手方の勤務先(第三債務者)に支払請求(取り立て) を行うことで,未払いの養育費を回収することになります。
また,例外的に,他の債権者(金融機関など)からも給料差し押さえの申立てがあった場合には, 相手方の勤務先(第三債務者)は差し押さえられた給料を法務局に供託するかたちで対応し, 裁判所が供託金を債権者に配分する手続き(配当)を行いますので,申立人(債権者) は裁判所が発行する配当証明書を法務局に提出して供託金の支払い請求を行うことで, 未払いの養育費を回収することになります。
3.注意点
(1)申立ての前にしておくと良いこと
相手方の給料を差し押さえる場合には,申立人において相手方の勤務先を特定しなければ なりませんので,相手方の勤務先が離婚当時と変わっていないか,給料に変動がないか, 他に兼業をしていて給料の支給がないか,といった点を,できるかぎり確認・把握しておくこと が重要です。
(2)申立てが無意味になってしまう場合
給料の差し押さえを申し立てたものの,相手方が既に勤務先を辞めていて,最後の給料も支払い済みの場合には,相手方が転職していたとしても,申立ての効力は新しい勤務先には及びませんので、折角の申立ても徒労に帰してしまいます。
そのため,相手方に催促しても養育費が支払われる見込みが無い場合には,早めに強制執行の申立てを準備された方が良いでしょう。
以上、養育費に関する強制執行について簡単にご説明しましたが、更に詳しく お知りになりたい方は、最寄りの法律相談センターでご相談ください。