弁護士コラム

債権法改正②(保証人の保護に関する改正)

1 はじめに

他人の借金等(主債務)の保証人になるということは、その他人(主債務者)が借金等を返済できなくなった場合に、その他人の残債務について責任(保証債務)を負うということです。主債務者の方で借金等の返済(主債務の履行)ができている間は何ら問題は発生しませんが、主債務の履行が滞ったり、主債務者が履行不能な状態に陥った場合には、保証人は、債権者から主債務者の代わりに残債務の返済等をするように請求(保証債務の履行請求)を受け、大きな経済的負担を強いられることになります。

保証人制度については、主債務者の経済的破綻などによって高額の保証債務を抱えた保証人が自己破産を余儀なくされる事例(いわゆる「保証倒れ」の事例)が散見されるなど、以前から「個人が安易に高額の保証人となる仕組み」が問題視されていました。

そこで、改正民法では、個人が保証人になる場合における保証人保護のための規定(①保証人の責任限度額の明示義務と②慎重な保証契約手続の導入)が新たに設けられました。今回はその中でも特に重要なものをご紹介いたします。

2 個人根保証契約における責任限度額の明示義務の導入

根保証(ねほしょう)契約とは、一定の範囲に属する不特定の債務を主債務とする保証契約であり、契約時には保証債務額が未だ確定されていないものです。根保証契約については、事業における継続的な資金融資(金銭消費貸借契約)において融資の都度に保証人を設定する煩雑さを回避するために利用される事案で多く見られますが、一般の方にも身近な事例としては、不動産の賃貸借契約において賃借人の各種債務(賃料支払債務や賃貸物件損壊時の損害賠償債務など)を保証人が一括して保証する場合なども「根保証契約」に該当します。

この根保証契約については、改正前は、主債務が貸金等債務(一般的な金銭消費貸借契約が典型です)の場合にのみ、保証人の責任限度額である「極度額」を定めなければならないとされていました(旧法465条の2)が、改正法では、対象となる主債務の範囲を拡張し、個人が保証人となる全ての根保証契約について、書面又は電磁的記録により「極度額」を定めなければ、その効力を生じないとされました(改正法465条の2)。

先の賃貸借契約を例にすると、改正前は「保証人は、本件賃貸借契約に関し、賃借人が賃貸人に対して将来負担する全ての債務を保証する」という内容でも有効でしたが、改正後は「保証人は、本件賃貸借契約に関し、100万円を限度として、賃借人が賃貸人に対して将来負担する全て債務を保証する」というように「極度額」を設定して明示しなければ無効となりました。

3 事業債務の保証に係る保証意思確認公正証書の作成義務の導入

事業関係の債務は高額となることが多く、しかも、事業内容に詳しくない保証人が安易に保証人になった結果、事業の破綻時に過大な保証債務の負担を余儀なくされるという問題が多々ありました。

そこで、改正法では、事業関係の貸金等債務について個人が保証人となる場合には、一部の例外(後述)を除いて、公正証書(公証人の面前で作成する公的な文書)で保証意思を確認しなければ、保証契約の効力を生じないとされました(改正法465条の6)。

また、事業債務の主債務者は、保証人になろうとする者に対して、自身の債務の履行能力に関する情報(財産及び収支の状況など)を提供しなければならないとされました(改正法465条の10)。

なお、主債務者が「法人」の場合における同法人の理事や取締役、議決権の過半数を有する株主等、主債務者が「個人」の場合における共同事業者や事業従事者である主債務者の配偶者などは、主債務者の事業内容に詳しいと想定されることから、本件制度の対象外とされています(改正法465条の9)ので、注意が必要です。

4 保証人に対する債権者による情報提供義務の導入

保証人は、主債務者が履行不能に陥ったときに不利益を負う立場ですから、保証人となるか否かの判断に際しては、債権者からも主債務者の履行能力に関する情報の提供を受けて慎重に吟味する必要がありますが、改正前は、このような情報提供について定めた規定がありませんでした。

そこで、改正法では、主債務者から委託を受けて保証人となった場合において、保証人から請求を受けた場合には、債権者は主債務に関する情報(元本や利息等の支払状況や残債務額など)を提供しなければならないとされました(改正法458条の2)。

また、保証人が個人である場合において、主債務者が返済等を滞納して支払期限の利益を喪失した場合には、債権者は、保証人に対して2ヶ月以内にその旨を通知しなければならず、通知をしなかった場合には保証人に対して「期限の利益喪失の日から通知の日までの遅延損害金」を請求することができないとされました(改正法458条の3)。

5 さいごに

上述のとおり、改正民法では「保証人を保護するための規定」が整備されました。しかし、過大な保証債務を負わないためにも、保証人となる際には引き続き慎重な判断が必要です。弁護士会の法律相談センターでは、民法改正に関するものに限らず、様々な法律問題に対してご相談を受け付けていますので、心配事がございましたら、法律相談センターにご相談ください。